「精霊たちの家」読了
2015-08-19


イザベル・アジェンデ著「精霊たちの家」を読了。

 南米チリの軍事クーデターまでの約100年にわたる、ある家族の年代記の形をとる小説。冒頭部分はたっぷりマジック・リアリズムの世界である。

 早世した緑の髪の美少女と、超能力を持ったその妹、そしてその夫となるべき、激しい癇癪持ちだが愛情深い男。二人の間に生まれた娘と、小作人の息子との波乱に満ちた生涯、そして孫娘の時代は戦後、やがてチリの軍事クーデターへと時代は流れていく。

 超能力は娘には伝わらず、美貌だけが受け継がれ、孫娘には超能力も美貌も受け継がれなかった。そして、それに反して時代はどんどん現代へと移っていく。

 ほぼ前編を通じて存在する背骨のような癇癪持ちの男の一代記として読むこともできるが、やはり女三代の年代記の色彩のほうが濃い。だが、日本の作品のようにドロドロしたものではなく、どこか現実離れしたところが心地よい。

 チリという国(というより、南米の文化)に不案内な我々にとっては、少々面食らうマジック・リアリズムだが、慣れてしまえば容易に受け入れられる。

 そして物語は円環を描き、冒頭と末尾の文章が見事に重ね合わされる。ハリウッドが映画化したのも納得できるが、この作品を映画化するには、どう考えても普通の映画の尺数では収まりきれなかったはずだ。

 大部の長編だが、読まずに済ますのは絶対にもったいない。
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