「エターナル・フレイム」読了
2019-11-10


グレッグ・イーガンの「エターナル・フレイム」を読了。

 「直交」三部作の第2部、前作で母星の滅亡を防ぐ方策を手に入れるために宇宙へ飛び出した「孤絶」コロニーでの出来事と、接近してくる脅威についての話が展開する。

 電子がない、つまり電子技術がまったくない世界で、半物質や対消滅の概念を表現するのはかなり離れ業だが、それをストーリーの上で再現するのは見事。生存に空気は必要ないが、体熱の放出のために空気が必要という、植物系生命体の描写も興味深い。彼らの行動を縛るものとしての生殖及び一族の存続が、この作品では男性による女性への暴力的な支配につながるなど、女性に対する頑迷さは人類と変わらない。それでも才能のある女性たちは抑圧や差別を払いのけていく。最後には女性にとっては文字通り生死の問題である「出産」に関する大きな変革(いかにも植物系生命体らしい変革)がもたらされ、社会構造が大きく変わるであろうことを示唆してこの物語は幕を下ろす。

 前作に比べ、閉鎖されたうえ資源も豊かではない「孤絶」での社会そのものへの言及が深まっており、ハードな科学考証に加えて抑圧に対する抵抗を描く場面が増加している。根本的に人類とは違う存在でありながら、こうも人間臭いキャラクターたちであることに、多少違和感は感じるが、あまりにも異質な世界と科学論考が多出する中で、そこがこの作品の親しみやすさにもつながるのだろう。
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