「ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男」を観る
2022-04-24


「ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男」を観る。2018年のアメリカ映画。

 タイトルからして、B級映画の匂いがふんぷんと漂ってくる。上映時間も98分。これはやっぱりB級で、劇場で観るとお金がもったいないたぐいの(でも好物なのだが)、アマプラ万歳作品と思って観始めた(なにせあの「こっくりサメ」の余韻もまだ残っているし…)。

 ところが、予想に反してこれはなかなか渋めのいい映画だった。老齢のうらぶれた(でも金は持っているらしい)爺さんが行きつけの安バーで飲んでいるシーンから始まるが、この爺さん、チンピラに絡まれてやられるかと思いきや、めっぽう強い。見事にチンピラ3人を瞬殺モードでのしてしまう。ただものではない!

 フラッシュバックで描かれるこの爺さんの過去、そして心の傷。この映画のポイントはこの部分であって、言ってしまえばヒトラーもビッグフットも出てくるには出てくるが、これはもう単なる象徴の具象化に過ぎない。人類規模の災厄の隠喩として設定され、それに立ち向かうための犠牲を背負う一人の男の人生の話となっている。

 もちろんツッコミどころはある。尺の短さが強引さにつながっているところもある。しかし、謎をわかりやすく説明するような野暮なことをせず、暗示のみで止めたり、主人公の爺さんの人生を暗示するかのようなシーンが一見無関係なふうに挿入されたりと、仕掛けはたっぷりだ。タイトルの際っぽさは本質に関する暗喩にすぎないことがよく伝わってくる。「ウルトラセブン」のエピソード「狙われた街」のように。

 爺さんを演じたサム・エリオットが本当にいい味を出している。この人でなかったらこの作品は成立しなかったかもしれない。背負った辛く悲しい過去を、重すぎず、軽すぎずに演じて、重要な決断をするときも渋く、大げさではなく、ためらいながらも一歩踏み出す感じがいい。爺さんの弟役のつかず離れず、優しく兄を見つめ、尊敬する姿もいい。音楽も安っぽく盛り上げに走ったりセずに押さえたトーンで、タイトルの際っぽさを相殺している。

 タイトルは原題の直訳。このタイトル自体が暗喩である。これは隠れた(そして誤解されがちな)いい作品だ。拾い物だった。

 ちなみに、ベッドの下の木製トランクの中…劇中では最後まで開かれないが、考えれば察しがつく。そういう奥ゆかしさもいい。
[movie]

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